Drupalの最新情報を学べる「DrupalCamp DEN 2022 Osaka」参加レポート

中津川 篤司

2022年01月29日にDrupalCamp DEN 2022 Osakaがオンライン開催されました。グローバル企業や政府機関、大学などで幅広く採用されているDrupalに関する最新情報が聞けるイベントです。

セッションの模様はYouTubeにて公開されていますが、この記事では幾つかのセッションをピックアップして紹介します。

ここが違う、DrupalとWordPress

日本IBM 小薗井康志さんと高橋剛さんによるセッションです。

セッションの様子

https://youtu.be/2zCmeY9BGOI?t=621

小薗井さんは10数年前にRuby on Railsを使っていたが、他の選択肢を色々と探していた中でDrupalを見つけたとのこと。仕事では1案件で取り扱ったのみですが、趣味でDrupalを追いかけているそうです。高橋さんがWordPress代表として登壇されています。過去のフリーランスをされていた経験もあり、その手視点でコメントしてくれています。

このセッションではDrupal’s admin UI & how it compares to WordPress | Acro Mediaという記事の内容をベースにお話されています。DrupalとWordPressの管理画面を比較している良記事とのことなので、ぜひご覧ください。

セッションの様子

コンテンツを作成するという点において、WordPressは項目が少ないので簡単そうに見えます。そのため、コンテンツを書き始める視点ではわかりやすいです。Drupalでは旧来のバージョンではWYSIWYGツールバーもなく、自分で入れる必要がありましたという懐かしい意見もありました。この記事ではコンテンツの書きやすさという視点なので、WordPressの勝利となっています。

続いてメニューについてです。メニュー項目の並び替え程度であればWordPressはGUIで設定できます。しかし込み入ったことをしようと思うとプラグインが必要になります。中級者になると、コードでやってしまおうとなるそうです。

セッションの様子

Drupalは直感的に分かりやすいUIが用意されており、メニューの設定が簡単にできます。なお、高橋さんからはWordPressは管理画面のUIも時折変更されてしまう点も指摘がありました。このメニューについてはDrupalの勝ちとなっています。

続いてユーザのロールとパーミッションです。Drupalはロール管理の強さで知られており、WordPressは基本6パターンしかありません。初心者にとってはわかりやすいですが、細かな設定ができないのが難点というケースもあるでしょう。こちらもDrupalの勝ちとしています。

セッションの様子

他にも多数の比較がありますが、総じて言えるのは手っ取り早くコンテンツを作るならWordPressがよく、Webシステムの基盤として使うならDrupalがお勧めとのとこです。IBMのWebサイトはDrupalが使われていますが、一部はWordPressも使われています。どっちが良い、悪いという話ではなく目的に応じて使い分けましょうとしてセッションを締めくくりました。

Drupalの歴史

イッセイ株式会社の直江健介さんによるセッションです。Drupalの21年の歴史を素早く、一気に振り返っていきます。

セッションの様子

https://youtu.be/2zCmeY9BGOI?t=2435

Drupalの前進であるソフトウェアが誕生したのは2000年の頃。アントワープ大学の学生であるDries Buytaertが大学の友人と情報を共有するのにウェブボードを立ち上げたのがはじまりだそうです。Driesが大学を卒業後に連絡を取り合う場として内輪サイトをオンライン化しました。Dorp.org(Dorpは村の意味)にしようと思ったのが、間違えてDrop.orgで登録してしまったところから徐々に広まってDrupalという名称が採用されるに至っています。

セッションの様子

ここからかなり内容が濃いので、箇条書きになってしまいます。

  • 2001年1月15日 1.0.0リリース。
  • 2001年3月15日 2.0リリース。コアモジュールは22個。ユーザ権限も導入されました。
  • 2001年9月15日 3.0リリース。ノードの導入。将来のエンティティになる機能の追加。
  • 2002年6月15日 4.0リリース。タクソノミーの導入。100近いサイトがDrupalを導入。
  • 2005年2月24日に最初のDrupalconが開催。
  • 2005年8月1日にセキュリティチームの誕生。
  • 2006年2月6日にgroups.drupal.orgが発足。地域のユーザーグループがオンラインで集まれるように。
  • 2007年1月15日 5.0リリース。
  • 2007年11月30日にアクイア社設立。
  • 2008年2月13日 6.0リリース。
  • 2009年10月24日 ホワイトハウスのWebサイトに採用。
  • 2009年11月 エンティティモジュールがリリース。
  • 2011年1月5日 7.0リリース。エンタープライズ、マイクロサイトまで幅広く採用されてように。
  • 2011年6月1日にSymfony導入を決定。後方互換性がなくなるので、コミュニティからも大きな反対があがる。
  • 2013年Drupal7をベースにしたBackdropの発表(フォーク)。DrupalCon Prague 2013はDrupal8の話題で持ちきり。
  • 2014年4月12日に国内初のDrupal Camp開催。
  • 2015年11月19日 8.0リリース。新しいリリースサイクルを採用。Symfonyの採用で開発スピードがあがったとのこと。
  • 2017年01月14日 2度目となるDrupal Camp Japan 2017。
  • 2018年9月5日 8.6.0リリース。Migrate APIを利用して、Drupal 7からのダイレクトな移行を完全にサポートした最初のバージョン。
  • 2018年11月17日 Drupal Camp DEN 2018開催。
  • 2018年12月13日 アクイア日本法人設立。
  • Symfony3のEOLが2021年末と決まっていたので、その1年前にDrupal9のリリースが決定。
  • 2019年12月7日 Drupal Camp DEN 2019開催。
  • 2020年6月3日 9.0リリース。セッション時点での最新版は9.3.3となっています。
  • 2021年1月29日 Drupal Camp DEN 2021開催。

開発スピードが上がったことで、従来の開発モデル(ウォーターフォール型)ではより失敗しやすい傾向になっているそうです。コアモジュール、コントリビューションモジュールの開発期間が短くなっており、仕様策定1年、開発期間1年といったスパンでは仕様策定が終わるまでに新機能が追加されています。1年はマイナーバージョン2つ分あり、セキュリティサポートを受けられなくなります。

セッションの様子

1年に2度マイナーアップグレードする必要があることを考慮した予算、プロジェクト編成が必要とのことです。そして、新しい情報を早く正確に取得し、コミュニティ活動へ参加して情報共有しましょうとしてセッションを締めくくりました。

Drupal認定試験にチャレンジしよう!

アクイアジャパン合同会社 丸山ひかるさんのセッションです。

セッションの様子

https://youtu.be/2zCmeY9BGOI?t=4241

アクイア認定プログラムは、Drupalとアクイアプラットフォームを使用して、ソリューションを構築するための専門性の高いスキルと知識を検証するための資格制度になります。パートナーや開発者を見つける時の評価基準として利用して欲しいとのことです。

現在、世界中で7000以上の資格取得数があり、24種類の資格ラインナップとなっています。アクイア認定プログラムは2014年から提供開始しており、試験はオンライン、オフラインどちらでも受けられます。2019年から日本語で受けられるようになっています。

セッションの様子

日本の認定取得数は1年で3倍になっており、世界的に見ても資格取得数は22位から6位まで伸びているそうです。

次に過去2年間の歩みについて紹介がありました。

  • 2020年4月: Drupal8 全試験日本語化。コロナ禍になって、完全オンラインの開発者向けウェビナーを実施。
  • 2020年9月: 資格保有者数が国内で100名を突破。2021年3月サイトビルダー試験対策講座を開始。開発者向けウェビナーの枠で全7回のアクイア認定サイトビルダー試験対策講座を提供。
  • 2021年9月: Drupal9全試験日本語化。Drupal9グランドマスターも徐々に誕生。

セッションの様子

最後に2022年に向けて、幾つかの予定が発表されました。

  • Drupal9グランドマスターレベルアップ試験
  • Acquia Academyコミュニティ版のローンチ
  • 「テーマ開発」「モジュール開発」入門ウェビナーシリーズ始動
  • Acquia Platform設定トラックの日本語化

Drupalの利用拡大には、デリバリーを行う開発者の力が必要不可欠であり、自身のDrupal技術力の可視化やアピールにぜひアクイア認定を活用してください、としてセッションを締めくくりました。

勝手に表彰。DrupalCamp版アクイア認定アワード!

セッションの様子

セッション中、突然ではありますが、「勝手に表彰。DrupalCamp版アクイア認定アワード」の時間がありました。今回は以下の4つの部門に分かれて表彰されました。

  • 日本語試験、最初に合格したで賞 Yasushi Inoueさん(Meta-info)
  • 最速でグランドマスターになったで賞 Yutaro Ohno(Studio Umi)
  • Drupal9のグランドマスターになったで賞 Hideyuki Hemmi(Mochiya)
  • 一人あたりの資格取得数が多いで賞 Yutaro Ohno(Studio Umi)他3名

ということで、モチヤからは逸見がDrupal9のグランドマスターになったで賞をいただきました。ありがとうございます!

京都大学公式サイトリニューアルプロジェクト

セッションの様子

京都大学 小野英理さんのセッションです。2020年12月に京都大学の公式サイトをDrupalにリニューアルした際のお話になります。

https://youtu.be/Ag6l8R6H6-Y?t=9445

Web戦略室は組織横断的に20名(専任2名)で構成されています。デザインについては学外からアドバイザーを招聘する形になっています。

プロジェクトの進め方ですが、まず2017年にWeb戦略室ができあがりました。そして、2019年4月に公募開始して、2019年7月に契約してキックオフという流れになっています。

まず旧Webサイトの課題、そして新Webサイトへの要件についてです。

セッションの様子

課題

  • 表示が遅い
  • 新規かつ重要な情報(コロナなど)がうまく格納できない
  • ベンダーロックイン
  • 掲載依頼の形式がバラバラ

要件

  • 海外大学に比肩するデザイン
  • グループウェア連携
  • アクセス解析
  • HTTPS化
  • アクセシビリティ

Drupalを採用する前にOSSのCMSを5つ、有償CMSを7つ比較したそうです。京都大学ではOSSを好む傾向があり、OSSの中でも特にシェアが高いWordPress、Drupal、Joomla!が最終的に残りました。この中で、次のような指摘があって、Drupalが選ばれました。

  • セキュリティ上の懸念からWordPressを除外
  • Joomla!は日本でのシェアが低いため除外
  • 機能的にDrupalが優位
  • Drupalは国内大学でも導入実績がある

セッションの様子

サーバ構成を見直して台数を半分にし、Fastly CDNやWebPを利用することで、1ページの平均読み込み時間を54%減させることに成功しています。また、掲載申請フォームを用意して依頼フォーマットの統一を実現しています。グループウェアはGaroonを利用しており、毎日2回担当者とグループデータを同期させているそうです。

セッションの様子

なお、大変だったことしてコンテンツの移行を挙げています。ページ数にして1.6万ページ、日本語以外にも中国語、韓国語、英語などがありました。旧サイトのデータベースからExcelに出力し、PythonでDrupalに最適化されたCSVファイルに変換したそうです。

最後に、今後は部局もDrupalに移行したいと期待をあげていました。

制約条件の多い環境下でのDrupal導入事例

セッションの様子

テンプル大学 辻靖子さんのセッションです。テンプル大学ジャパンキャンパスは1982年に設立され、2005年に外国大学の日本校として認定されています。

https://youtu.be/Ag6l8R6H6-Y?t=13051

まず旧サイトの紹介がありました。

  • 2011年に構築
  • HTMLエディタを使った手動更新
  • コンテンツは5000ページ超
  • 本校のWebサイトとは一体感がない
  • Includeファイルが多く、サイトの構成が複雑
  • WordPressを学生イベントやニュースで限定的に利用

セッションの様子

こうした中で、更新依頼に追われてレイアウトやコンテンツの改善など将来的なプランニングができていないのが課題だったそうです。

そして、本校のDrupalをベースにカスタマイズして導入したのが本セッションのプロジェクトになります。

本校のDrupalがベースなので、本校経由でアメリカの会社に発注しなければならなかったそうです。しかし、本校は英語のみなのに対してジャパンキャンパスは日英バイリンガル仕様になります。さらに管理者権限が限定的で、自由にモジュールがインストールできなかったり、英語サイトのコンポーネントは日本語を使うとフォントサイズのバランスが悪いといった問題がありました。さらに本校はDrupal7であり、機能不足もあったそうです。

セッションの様子

企画から公開までは2年かかり、旧サイトの更新は引き続き行われていました。辻さんが配属した時にはすでに公開日は決まっており、間に合わせるために目をつぶらざるを得なかった機能もあるそうです。たとえばページ構成、レイアウトは旧サイトのままとなっています。WordPressの運営も継続して行われています。

反省点として挙げていたのが、ページ一覧の作成と共有がGoogleスプレッドシートやExcelだったので管理が煩雑になってしまった点を挙げていました。Drupalコンテンツを管理するDrupalを立ち上げてもよかったかも知れないとのことです。担当者のリテラシーがバラバラであり、GoogleスプレッドシートやExcelの使い方についても事前に教育できていればなお良かったそうです。

セッションの様子

なお、アメリカでは夏休み、サンクスギビング、ホリデーシーズンはプロジェクトが止まってしまうため、サンクスギビング前の11月15日に公開したのは正解だったとのことです。

まとめ

DrupalCamp DEN 2022 Osakaでは他にも多くのセッションがあります。気になる方はDrupalCamp DEN 2022 OSAKA ONLINEにてセッション情報をチェックしてください!

多数の事例があり、その中でDrupalを選定した理由や他のCMSとの比較なども解説されています。CMS選定にお悩みの方、Drupalの効率的な運用を学びたい方はぜひご覧ください。
 

中津川 篤司 / ライター/パートナー

MOCHIYAブログのライター。
OSS好きで、テクノロジーの守備範囲は広いです。MOONGIFTという会社もやっています。趣味はバスケ、旅行、美術館&博物館鑑賞など。

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