Drupal創設者の発言に見るDrupal 11の展望予想 -サイトビルダー冬の時代の終焉

井上 賢太郎

2022年4月25日~28日の4日間、アメリカのポートランドで「DrupalCon Portland 2022」が開催されました。DrupalConは毎年開催されるDrupal業界最大のイベントで、世界中からDrupal関係者が集まりDrupalに関する講演、交流、情報交換などが行われます。

DrupalConの冒頭では、Drupalの創設者 Dries Buytaert氏による基調講演(Driesnote)が恒例となっています。
Driesnoteは今後のDrupalのビジョンと戦略。そして、それらの達成に向けた具体的な活動方針が語られることが多く、Drupalの今後のあり方を予測する上で非常に重要なものとなっています。DeisはDriesnote中でDrupal 11における第1のビジョンとして以下のテーマを掲げています。

「Drupal is for Ambitious Site Builders. (Drupalは野心的なサイトビルダーのためにある)」

 

本記事を執筆時点ではまだDrupal10の正式バージョンがリリースされていない状態ですので、Drupal11について語るのは少し気の早い気もします。しかし、この発言はDrupalの開発プロジェクトにサイトビルダーとして関わる私にとっては非常に印象的な内容でした。また、今後のDrupalのあり方を示す一つの指針になるものであると感じました。

ここでは、DrupalCon Portland 2022 Driesnoteから読み取れる、今後のDrupalの未来について私見を交えて解説します。

そもそもDrupalにおけるサイトビルダーとは?

Drupal業界に身を置かない方々にとって「サイトビルダー」と言う言葉は聞き慣れない言葉だと思います。まずは、そもそも「サイトビルダー」とは何かについてご説明します。

Drupalにおいてサイトビルダーとは「コードによる開発を行わずモジュールを組み合わせてGUIからの操作のみでサイトを開発する者および役割」を指します。以下に示す典型的なDrupal開発チームの編成をご覧いただくと、その位置づけが理解しやすいかもしれません。なお、これらの分類はあくまで一般例です。プロジェクトの性質や組織によっては、複数の職務を兼任する場合も良くあります。

典型的なDrupal開発チームの編成

職種 開発者 サイトビルダー フロントエンドエンジニア ディレクター
職務内容 Drupalに関するプログラミングなど、高度な開発業務。サイトビルダーでは対応が難しい開発を担当する。 コード開発を伴わない開発業務。Drupal coreの機能および、寄与モジュールを組み合わせサイトを構築する。 主にフロントエンドを担当。html。css、jsなど、Drupalのテーマレイヤーの開発を行う。 顧客との折衝やプロジェクト管理を担当。
求められるスキル 高度なDrupa及びのWebプログラミング開発に関する知識

Drpualの基本機能を利用したサイト構築
適切なとモジュール選定をそれらを利用した開発
基本機能とモジュールを組み合わせたDrupalレイヤーのアーキテクチャ設計と開発

フロントエンドに関する知識全般(html、css、js)などフロントエンド開発における知識全般。 プロジェクト’管理
顧客との折衝
備考 開発者は基本的にサイトビルダー、フロントエンドエンジニアの行う全業務が実施可能。 熟練したサイトビルダーがアーキテクチャ設計を担当することもある。 Drupalの知識は必ずしも必要ではない。 Drupalの全般的な知識があるとプロジェクトはスムーズに進行する。

Drupal 8以降のサイトビルダーを取り巻く環境

Drupal 8が2015年にリリースされ、新規案件にDrupal 8が採用されるようになってきた2016年あたりから、サイトビルダーを取り巻く環境は大きく変わりました。

Drupal 7から8への分断とモジュール開発の停滞

Drupal 8にはPHPフレームワークとしてSymfony、テンプレートエンジンとしてTwigが採用されるなど、Drupal 7からDrupal 8への移行時の大幅なアーキテクチャの変更がありました。この変更は大きく、Drupal7と8では別のCMSであると言っても過言でありません。この変更寄与モジュールの開発者に大きな影響を及ぼしました。

モジュール開発者はDrupal 8への対応を迫られましたが、寄与モジュールのDrupal 8への対応ペースは順調とは言えず、開発が頓挫するプロジェクトやDrupal業界を離れてしまう開発者も続出しました。

中には10万サイト以上で利用されている必須モジュールでも、まだ安定版がリリースされないケースもあります。そのため、Drupal 8がリリースしてから特に3年程は、Drupal 7ではモジュールを利用して容易に導入できた機能も、Drupal 8においてはコードによる開発が必要な状態が続きました。

Drupal7から8へのアップデートが難航している典型例 Rulesモジュール

Drupal7から8へのアップデートが難航している典型例 Rulesモジュール

サイトビルダー冬の時代

Drupal 8におけるモジュール開発の停滞の影響を受けたのは、モジュール開発者だけではありませんでした。モジュールを利用してサイトを構築するサイトビルダー達への影響は甚大でした。モジュールを利用することでDrupal 7では容易に実現できていた機能が、Drupal 8ではこれまで以上のコストをかけてコード開発をしないと実現できないという事態に陥り、サイトビルダーの本分であるモジュールを組み合わせた開発が困難な時代に突入しました。

Drupal業界には以前から根強く「サイトビルダー不要論」が存在していました。前述の典型的なDrupal開発チームの編成でも述べている通り、サイトビルダーの業務は開発者であれば対応できるため、対応可能な業務が限定的なサイトビルダー専任者は不要ではないかという理由がその根拠でした。モジュール開発の停滞はこの論調に拍車をかけました。

Drupal 8が2015年にリリースされ、新規案件にDrupal 8が採用されるようになってきた2016年あたりから、サイトビルダーにとっては冬の時代が続いています。本記事を執筆時点の2022年12月現在では、利用可能なモジュールが充実してきたこともあり、サイトビルダーの出来る事はかなり増えてきました。しかし、Drupal 7の全盛期に比べるとまだまだ制約が多いのが現状です。

Drupal 11はサイトビルダーにとって希望となるかもしれない

Driesnoteにおいてサイトビルダーとコントリビューター、それぞれに向けたビジョンが提唱されました。

対象 サイトビルダー コントリビューター ※
ビジョン Drupalは野心的なサイトビルダーのためにある。 コントリビューターを支援することでイノベーションを加速する。
戦略
  • モジュールを探しやすくするProject browser機能の実装
  • 目的に応じた設定状態から開発を開始できるStarter template機能の実装
  • 自動アップデート機能の実装
  • プロジェクトのコード管理を自前のシステムからGitLabに移行する
  • Drupal coreを小さく保つため20%のモジュールをDrupal coreから外す

※Drupal coreや寄与モジュール、テーマなどの開発者

また、Drisは「Drupalの原点はサイトビルダーをノーコード、ローコード、ソリューションで支援することです。」とも明言しています。

これらの発言から、いよいよ「サイトビルダー冬の時代」の解消のための具体的な意志表明がされたように思います。Drisが第1にサイトビルダーについてのビジョンを示したこと。そして、コントリビューター向けの施策は直接的にモジュール開発者にプラスに働くのではないかと考えています。これにより、今後モジュール開発が加速され、結果として開発現場においてサイトビルダーの活躍の場も増えるのではないかと考えています。

新たにDrupalを始めようと思う方、もしくは、過去にDrupalを挫折したことのある方にとってもDrupal 11は絶好の機会になるのではないかと思います。サイトビルダーである私自身もDrupal 11のリリースを心待ちにしています。

井上 賢太郎/ Senior Drupal Solutions Architect

お客様のご要望をヒアリングし、Drupalにおいて、どのように実現するかを立案、設計しています。地元の新潟や海外からリモート勤務をしています。得意なことは格闘全般、好きなDrupalモジュールはGroupです。長期的な保守運用を視野に入れた戦略的なアーキテクチャ設計を信念としています。

著書:Drupal 8 スタートブック―作りながら学ぶWebサイト構築

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