DrupalとAdobe Experience Manager、Sitecoreどれを選びますか?
モチヤスタッフ世の中にはさまざまなCMS (コンテンツ・マネージメント・システム)がありますが、大企業の要件を満たせるCMSはあまり多くありません。
そんな中Drupalは大企業が必要とする様々な機能を用意しているため、大企業で使われることが多いですが、それ以外に比較検討に上がるCMSが「Adobe Experience Manager(以下AEM)」と「Sitecore」です。
この記事ではDrupal とAEMやSitecoreを比較して、Drupalのメリットを軸に置きながら、CMS選定時に気をつけるポイントを解説します。
CMS選定に悩んでいる方や、それぞれの特徴が気になる方はぜひご覧ください。
上場企業で使われている3つのCMSの割合
「DataSign Report 上場企業 CMS調査 2021年8月版」と「DataSign Report 上場企業 CMS調査 2020年9月版」によると、今回紹介する3つのCMSの中で、上場企業に選ばれているCMSだとDrupalが最大のシェア率になっています。
ライセンス | CMS | 2021年 | 2020年 |
---|---|---|---|
オープンソース | Drupal | 104(73.8%) | 92(61.3%) |
商用 | Adobe Experience Manager | 33(23.4%) | 48(32%) |
商用 | Sitecore | 4(2.8%) | 10(6.7%) |
また、AEMやSitecoreは2020年から2021年の1年間で数が減っているのに対して、Drupalはシェアを伸ばしています。
次はそれぞれのCMSの特徴をざっくり見ていきましょう。
Drupal
「Drupal」は2001年に誕生した、PHP製のオープンソースCMSです。
AEMやSitecoreが商用CMSでライセンス料がかかるのに対して、DrupalはオープンソースCMSなのでライセンス料がかかりません。
それでいて、大企業が求める機能が十分に用意されています。
これは2012年からDrupalが「大企業とプログラマに向けたCMS」を掲げ、その位置付けを意識しながらアップデートを繰り返してきたからです。
また、オープンソースCMSはソースコードが公開されていることから、セキュリティを懸念されがちです。
しかし、Drupalはセキュリティにかなり力を入れています。
これも大企業から選ばれている理由の1つでしょう。
Drupalのセキュリティに関してもっと詳細な情報が知りたい場合は、過去に記事にしているので「Drupalのセキュリティ・脆弱性について」もぜひご覧ください。
Adobe Experience Manager
「Adobe Experience Manager」はIllustratorやPhotoshopなどのクリエイティブツールでお馴染みのAdobeが提供しているCMSです。
実はAdobeはクリエイティブツール以外にもAdobe Analytics やAdobe Targetといったマーケティングツールも提供しています。
その中の1つがAEMです。
大きな特徴は、CMSだけでなくDAM(デジタルアセット管理)としての機能も用意されている点です。
企業ロゴや画像素材などのデジタル資産を集中的に管理して効果的に活用したり、制作・共有・検索を効率化できるように意識されています。
Adobe Creative Cloundとのネイティブ連携が用意されているのも、Adobeならではの機能です。
Sitecore
「Sitecore」はデンマークの SITECORE 社が提供するCMS です。
特にデジタルマーケティング機能に力を入れていて、下記のような機能がついています。
- アクセス解析
- エンゲージメント分析
- キャンペーン
- A/B テスト
- レコメンドのアルゴリズムの実装
- メール配信
- マーケティングオートメーション(マーケティング機能の自動実行)
こうしたマーケティング関連の機能は、アクセス解析の場合はGoogleアナリティクスを利用するなど、CMSとは別サービスを利用して行うのが一般的ですが、Sitecoreの場合はCMS内ですべて完結します。
また、訪問者ごとにサイト内での行動履歴分析を行い、分析結果をもとにして訪問者のニーズにマッチしたコンテンツを表示できます(訪問者の個別最適化)。
このように、かなりマーケティング機能に力を入れたCMSになっています。
Drupalが商用CMSと比較される理由
Drupalはソースコードが公開されていて、ライセンス使用料が無料のオープンソースCMSに分類されます。
それに対してAEMやSitecoreは、商用CMSと呼ばれるライセンス使用料がかかるCMSです。
DrupalがオープンソースCMSでありながら、商用CMSと比較される大きな理由は、先ほどDrupalの説明時でもあげた通り、「Drupalが大企業の求める機能を十分に備えているから」です。
具体的に大企業が求める機能というのは、下記のようなものを指します。
- 管理者が多いことによる複雑な権限管理機能
- 大量のアクセスをさばくための高度なキャッシュ機能
- 大企業でも通用するセキュリティ
- 高負荷に対する堅牢性
- 必要な機能をあとから追加できる高い拡張性
このどれもがDrupalにも備わっていますし、商用CMSであるAEMやSitecoreにもある程度備わっているため、必然的にこれらのCMSがそれぞれの比較対象に上がります。
上の画像はガートナー社が発表する「Gartner Magic Quadrant for Digital Experience Platforms」というデジタルプラットフォームの比較表です。
このグラフでもDrupalとAEMやSitecoreは同じ領域の製品群として比較されています。
実際、モチヤへのCMS導入相談においてもAEMやSitecoreの名前が挙がることが多いです。
DrupalとAEMやSitecoreの比較
CMSの構築コスト
CMSを検討するときに、まず気になるのが「価格」です。
一般的に商用CMSではライセンス料がユーザごとにかかります。
ユーザー数が少なければ気になりませんが、大企業でユーザーが数百・数千と増えていくと、ライセンス料も高額になります。
これは一般的に公開されていませんが、「Comparing the cost of Enterprise CMS to Drupal」によると、商用CMSのライセンス料は年間4〜8万ドルかかるとされています。
1度支払えばそれで終わりではなく、毎年それだけのライセンス料が必要になります。
また、導入時は構築費用も別途必要になります。
CMSはデフォルトのまま導入して完了ではなく、カスタマイズが必ず行われます。
商用CMSの場合、初期構築コストが数千万円〜数億円の幅で見積もられることが多いようです。
そして構築後は保守費用もかかってきます。
それに対してDrupalの場合、オープンソースCMSなのでライセンス料がかからないのがメリットです。
商用CMSのライセンス費用を開発費用にあてられる分、初期構築費用が安価になります。もちろんDrupalの場合でも保守費用は必要になりますが、年間のライセンス料はかかりません。
商用CMSの場合にかかる年間4〜8万ドルのライセンス料がかからないのは非常に分かりやすいメリットです。
CMS以外の機能
AEMの場合はDAM(デジタルアセット管理)の機能が用意されていたり、Sitecoreの場合はデジタルマーケティング機能が豊富に用意されていたり、訪問者の個別最適化といった機能も含まれています。
しかし、それらの機能を本当に実運用で使いこなすことはできるのでしょうか。
AEMやSitecoreはCMSとしての機能以外に、例えばアナリティクスや訪問者への個別最適化といった機能も含まれています。
それらの機能を網羅的に使いこなし、価値を引き出すのはとても困難とされています。すべてを網羅したCMSではあっても、実際の運用で利用する機能は限定的になるでしょう。
(Acquia vs. Adobe Experience Manager | Acquiaより)
上記の通り、実際の運用ですべての機能を利用することは少ないですし、機能が多いCMSは管理画面が複雑になっている場合が多く、どこになにがあるか把握するのも大変です。
機能が多いから良いのではなく、CMSは自社にフィットした機能が十分に揃ったものを選択するのが重要です。
それに対してDrupalの場合はCMSに特化しており、それ以外に必要な機能があれば公式モジュールを利用したり、必要なモジュールを開発できます。
あとから機能拡張ができるので、組織やWebサイトの成長に合わせて機能を補完していけます。
拡張性の高さ
Drupalは「API-first, not API-only」という立ち位置を取っています。
APIによる拡張性は活かしますが、だからと言ってAPIしか提供しないわけではありません。
CMSとしての基本的な要件は満たしながら、個々の要件に合わせた拡張はAPIで行えます。
AEMやSitecoreも拡張性はありますが、その実装はパートナー企業次第になります。
専門の知識を習得したパートナーが、APIやシステム連携に関して深い知見があれば問題なく実装できますが、そうではない場合はシステム連携が思いのほか難しくなるかもしれません。
コミュニティの規模
DrupalもAEMもSitecoreもオープンなフォーラムを用意していてコミュニティの恩恵を受けられます。
しかし、その中ではオープンソースCMSであるDrupalが最も規模が大きく、商用CMSとは比較になりません。
その代わりに商用CMSはパートナーのサポートを得られます。
しかし、契約によってサポート範囲が異なる場合が多く、契約内容によっては十分なサポートを得られない場合や、別途料金がかかってくることもあります。
Drupalの場合は、日本はもちろん世界中の「Drupal開発者と繋がれるコミュニティ」があり、開発はもちろん運用や導入に関する質問も投げかけられます。
また、Drupalは商用CMSに比べて開発者が多いので、その分情報量が多く、なにか調べたときにヒットする可能性も高くなります。
Drupalのそれ以外の魅力について
Drupalには他にも多くの魅力があります。
いままでに紹介した「管理者が多いことによる複雑な権限管理機能」「大量のアクセスをさばくための高度なキャッシュ機能」「大企業でも通用するセキュリティ」「高負荷に対する堅牢性」「必要な機能をあとから追加できる高い拡張性」以外にも、下記のような魅力があります。
- 複雑な業務フローへの対応
- 継続的・明確なアップデート
- グローバルにビジネス展開するのに必須な多言語対応
- 最新Web技術トレンドへの対応
また、大企業が求める高いレベルの堅牢性、安全性を備えていることから、政府や公共機関のWebサイトで使われている事例も数多くあります。
もっと詳しく知りたい方は、以前に書いた「Drupalとは何か。その特徴と魅力を1記事でまとめて解説します」をご覧ください。
まとめ
AEMやSitecoreが最適な案件もありますが、多くの場合は機能を使いこなせず、運用が複雑化してしまっているようです。
「とりあえず機能が多い方が良さそう」
「商用CMSでライセンス料を払った方が、なんとなく無料のものより良さそう」
このような考え方ではなく、業務要件や機能要件を正しく判断して、本当に必要な機能を考えた上で選定を行うようにしましょう。
モチヤではDrupalによるシステム構築、カスタマイズ、導入サポートを提供しています。
もし、CMS選定時にDrupalにするかどうか悩んでいて、ご自身では判断しきれない場合は、要件をヒアリングしてDrupalが適しているか確認することも可能です。
ぜひお気軽にお問い合わせください。
モチヤスタッフ
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